俵万智さんをご存じですか。サラダ記念日の歌集が有名で、恋愛に関する短歌をよく詠んでいます。彼女の詩集は恋愛の気づきや学びを与えてくれるため大好きです。
少し話はそれますが、山田詠美さんが書いた小説『ぼくは勉強ができない』のなかには恋愛相談をする主人公に対してクラスメイトが詩集を手渡しながらこんな言葉をかけます。
「詩集よ。役に立つのよ、これが。恋愛自体にじゃなくて、自分自身の途方に暮れた気持ちにね」
本が持つ静けさやページの余白が人を感傷に浸らせてくれます。そんな詩集の良さや効果をここまで端的に表しているセリフもなかなかないと思います。
それではさっそくチョコレート革命の短歌を見ていきましょう!!
自分によく当てはまる歌から自分には実感がない歌までさまざまで、興味深く面白かったです。あとがきの中にはこのようなことが書いてありました。
短歌は、事実(できごと)を記す日記ではなく、真実(こころ)を届ける手紙で、ありたい。
人を想って揺れる心は、これからも私にとって、大きなテーマだ。恋の歌は、死ぬまで詠みつづけたい。
俵万智 『チョコレート革命』 あとがき
俵万智さんからの短歌はこころを届ける手紙であることが目標なようです。手紙というのは万智さんだけのものではなく、むしろ私たち読み手がいて成立するもののように感じます。拝読しながら、万智さんと作品を作り上げるかのような気持になり一層この本のことが好きになりました。
三選を抜粋してみました。この本を持っている人はどこのページの何ページにあるか探してみてください。
「相手を傷つけないため」というコトバは実は自分を守るため、自分を嫌われ者にしないための方便なことがあるような気がします。この短歌には自分自身ドキッとさせられました。恋愛をするにあたっての覚悟のようなものを問われた気がします。
チョコレート革命とはなんでしょうか。チョコレートは甘く苦い印象のあるスイーツです。彼の優しさを甘い、つまり嬉しいと感じているのでしょうか。それとも苦い、ずるい男だと憎んでいるのでしょうか。そのような複雑な気持ちをすべてチョコレートと革命という言葉に載せた豪胆さには頭が上がりません。すごすぎます。
本書のあとがきにはこの短歌に関してこのように書いています。
大人の言葉には、摩擦を避けるための知恵や、自分を守るための方便や、相手を傷つけないためのあいまいさが、たっぷり含まれている。そういった言葉は、生きてゆくために必要なこともあるけれど、恋愛のなかでは、使いたくない種類のものだ。そしてまた、短歌を作るときにも。言葉が大人の顔をしはじめたら、チョコレート革命を起こさなくては、と思う。
俵万智 『チョコレート革命』 あとがき
自分が大切にしたい人との関係で大人の言葉を使い始めたら、チョコレート革命を起こせるような人間でありたいです。生きるために必要なことと生きるために大切にしたいことを分別しながら、この気持ちを忘れたらまたこの本に戻ってこようと思います。
恋人との別れ話でしょうか。それとも単にデートの別れ際のシーンかもしれません。もしくは上京する恋人を見送るシーンでしょうか。場面の想像が様々に広がりますが、サヨナラの声の震えのようなものを私は感じました。居心地の悪さや気まずさのようなものをスリッパの左右から思います。
せつないシーンを身近なもので例えた秀逸作品です。
この歌も大好きな短歌です。八方ふさがりな寂しさと苦しさをこれでもかと味わうことができます。あなたと一緒にいたいけど、あなたといると苦しい状況にある私の焦燥感や、ままならない状態への苛立ちをこれでもかと短歌で表現しています。
人生って大変だよね。と一言でいうのは簡単ですが、具体的にどう大変なのかといわれれば、案外この短歌のような回答になるのかもしれません。
今日は俵万智さんの『チョコレート革命』を紹介しました。短歌は文字通り短い歌ですから、気楽に楽しむことができます。ぜひ、恋に悩む方や少し疲れてしまった方は、詩集と一緒に感傷に浸ってみてはいかがでしょうか。
俵万智 著 『チョコレート革命』 河出書房新社