2022年5月31日経済産業省(以下、経産省)は「未来人材ビジョン」と呼ばれるpdfファイルを公表しました。これは2030年、2050年の未来を見据え、産業の構造転換を乗り切るための雇用・人材育成から教育システムに至るまでの課題を一体的に議論し、その内容をまとめたものです。
109枚のスライドで構成されており、かなり気合の入った内容です。今回は3分で読めるように内容をピックアップして紹介します。
米国や日本においてAIやロボットによる雇用の自動化が「労働市場の両極化」を引き起こしている。また化石燃料関連産業の雇用は大きく減少するとの予測もある。
将来の不確実性を背景にリスキルやAI、ロボットとの共生の在り方に対する関心が高まっている。
この中で日本の生産年齢人口は2050年では現在の2/3に減少する(7400万人から5300万人)。
より少ない人口で社会を維持し、外国人労働者からも「選ばれる国」になるためにも社会システム全体の見直しをする。雇用人材育成と教育システムを一体的に議論する。
企業ができることは何か。
これからの時代に必要となる具体的な能力やスキルを示し、今働いている方、これから働く学生、教育機関等、多くの方に伝え、それぞれが変わっていくべき方向性を明確にする。
こうした問題意識からこの会議は始まった。
これからの時代に必要となる能力やスキルは基礎能力や高度な専門知識だけではない。
これからの社会を形成する若い世代に対して求められることは4点
- 「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」
- 「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」
- 「グローバルな社会課題を解決する意欲」
- 「多様性を受容し他者と協同する能力」
現在は「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」が重視されるが、将来は「問題発見力」や「的確な予測」、「革新性」が一層求められる。
「問題発見力」や「的確な予測」等が求められるエンジニアのような職種の需要が増える一方、ジム・販売従事者といった職種に対する需要は減る。
AIやロボットで代替しやすい職種は雇用が減少し、代替しづらい職種や、新たな技術開発を担う職種では雇用は増加する。
経済成長の鈍化とともに1990年代からは日本型の雇用システム(終身雇用や年功型賃金、長期雇用を前提とした新卒一括採用など)の限界が指摘されてきた。
日本企業の従業員エンゲージメントは世界全体で比較して最低水準、現在の勤務先で働き続けたいと考える人は少ない。しかし転職や起業の意向を持つ人も少ない。
課長部長への昇進が遅く、転職が賃金増加につながらない。人財競争力が下がっている。海外留学する日本人は減少しており、海外で働きたいと思わない新入社員が増加している。
役員管理職に占める女性比率が低い。東証一部上場企業の合計時価総額はGAFAM5に抜かれた。日本の国際競争力は30年で1位から31位まで落ちた。
この現実を直視し、企業には雇用人材システムの聖域なき見直しが求められる。日本型雇用システムと採用戦略を革新する必要がある。
人事戦力と経営戦略に紐付いていない。投資家は人材投資を最も大切にしているにもかかわらず、企業側の認識とギャップがある。
身体や脳、空間や時間の制約がなくなっていく過程で「働くこと」の意味や「組織」の意味づけ自体が問い直されている。こうした未来への備えとして、働き手の自律性を高める方向性が望ましい。
好きなことにのめりこんで豊かな発想や専門性を身に付け、多様な他者と協働しながら、新たな価値やビジョンを創造、社会課題や生活課題に「新しい解」を生み出す人材が求められている。育てられるのではなく、ある一定の環境の中で自ら育つという視点が大切である。
OECD加盟国中、日本の15歳の数学的科学的リテラシーはトップレベルである。しかし「数学や理科を使う職業に就きたい」と思う子どもは少なく、高い数学的・科学的リテラシーが生かせていない。
学校だけに多くの役割を求めるのは現実的ではない。学校の外で多様な才能を開花させるサードプレイスを広げるべきである。
変革の責任を、教育機関だけに押し付けてはいけない。学校教員の負担は国際的にも高い水準にある。
これから向かうべき2つの方向性
- 旧来の日本型雇用システムからの転換
- 好きなことに夢中になれる教育への転換
経済産業省 未来人財ビジョン
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
経済産業省ニュースリリースより
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001.html
(1972文字)