MSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)とは?考え方と瞑想法の一部を紹介します。

はじめに

MSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)をご存じですか。自分が仕事で失敗してしまった時に、「だから私はだめなんだ」と自分を責めてしまったことはありませんか。他人の能力や容姿と比較して、「私は誰にも愛される資格がない」と自分に厳しい言葉をかけてしまったことはありませんか。イライラしながら会社に行く人やモヤモヤしながら学校に行く人、家事育児に奮闘する人たち、、、忙しい現代社会を生きる私たちだからこそMSCが必要です。

MSCは何か新しく画期的なプログラムという訳ではありません。わたしたちの祖先が生活する中で、古くからある心と体の取り扱い方法を学ぶだけです。新しいことを挙げるとすれば、その実践に前向きな効果があることを現代の科学が証明していることです。

MSCとは

MSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)とは家族や親友に向けるやさしさを自分自身にも向けようとするプログラムです。このプログラムは仏教心理学、特にマインドフルネス瞑想に着想を得ていますが、心理学の研究と心理療法の実践の両面から科学的かつ専門的な探究がされています。もちろんMSCを実践するにあたって特定の宗教に入信する必要などは一切ありませんのでだれでもお手軽に始めることができます。

MSCで学ぶ主な概要としては、苦しんでいる時を知ること、気づくこと(マインドフルネス)と優しさと理解をもってそれに反応すること(セルフ・コンパッション)です。幸い、セルフ・コンパッションは誰でも学ぶことができます。セルフ・コンパッションを実践する様々な方法があることを理解し、私たちの様子や生活状況によって実践を変えていくことが必要です。つまりMSCは学ぶ人の立場や考え方により少しずつ変化していくのです。

ここまで聞くとなにか難しそうと思う方もいるかもしれません。しかし心配はありません。みなさんがこれまで生きてきた中に必ずセルフ・コンパッションをして自分自身をメンテナンスしてきた瞬間が必ずあります。人間はそうして生きています。MSCプログラムではそれを意識的に引き出すだけです。

MSCではないこと

ここまで聞いて、MSCとは自分を甘やかすことではないかと考えた人もいるかもしれません。もしくはMSCをなにか懐疑的なものに捉えられたかもしれません。

しかし、これは全く異なります。自己を甘やかすこともや可哀想な人間だと憐れむことも、間違った振る舞いに対する言い訳にもMSCはなり得ません。自己への声掛けのイメージとしては近いものは、愛情ある母親です。コンパッションのある母親はきっと子どもに対して好きな時に好きなだけアイスクリームを食べさせたりはしないでしょう。おそらく子どもに肉や野菜などをバランスよく食べさせることでしょう。MSCは目先の快楽にとらわれることなく、長期にわたり心身の健康を高めることが知られています。自分の間違えやミスを人に押し付けるのではなく、自分の間違えを認めるための心の余裕を作るのです。

実際、研究結果からもセルフ・コンパッションのある人はそうでない人に比べ、運動(1)をして規則正しい生活を送り(2)、アルコールを飲みすぎない(3)などの健康行動に取り組む傾向にあることが研究からわかっており、自分の行動に責任を取り(4)、他人の気分を害するようなことがあれば謝罪する(5)傾向にあります(参考文献参照)。

また、セルフ・コンパッションは自尊心と間違って混同されることがあります。自尊心を持つためにはその集団の中で傑出しているもしくは平均以上であることが求められます。つまりすべての人が同時に自尊心を持つことはできません。人と比べ、自分がダメな人間であると感じてしまうこともあるでしょう。

セルフ・コンパッションと自尊心の違いとして以下のようなことが挙げられます。

  • 自尊心は自己の価値に対してポジティブな評価です。一方、セルフ・コンパッションは判断や評価ではありません。
  • 自尊心に必要なのは他社より優れているという感情です。一方、セルフ・コンパッションに必要なのは私たちはみな完璧でないと認めることです。
  • 自尊心はいいときにいる友達です。失敗したときや落ち込んだときのように、一番必要な時にはどこかに行ってしまいます。一方、セルフ・コンパッションはいつもそばにいます。落ち込んだときに「あれは、辛かったよね。大変だったね。」と声掛けをしてくれるサポート源となります。

実際にやってみよう

MSCプログラムの一つを実際にやってみましょう。始める前に覚えていてほしいことが二つあります。

  • 苦しい時にセルフ・コンパッションを行うのは気分を良くするためではなく、気分が悪いからです。
  • ゆっくり気楽に自分のペースで瞑想を行う。

一つ目、セルフ・コンパッションは気分が悪いから行います。風邪を引いた子どもを看病する親は風邪を治そうとしているのではありません。風邪は時間が経てば治るわけで、治るのを待つ間、苦しみを和らげようとするのは自然な反応です。

二つ目、セルフ・コンパッションを学ぶにあたってゆっくり、自分のペースで行ってください。上手くやろうとしたり、MSCのための時間を30分、1時間と作り出す必要はありません。仕事や学校の休み時間など空いた時間などに自分がやりやすく簡単な実践方法を見つけていけばよいです。完璧でなくてかまいません。やってみることが大切です。

それでは瞑想の実践方法を紹介します。

優しい呼吸

瞑想中は軽く目を閉じると思いますが、残念ながら目を閉じてしまうと文字が読めません。そのため何度か通して読んで頭に入れるか、目を閉じて数分練習し、もう一度目を開けて文を読むというやり方をしてください。

  • 身体が心地よい体勢で瞑想を行います。横になっても座っていてもかまいません。次に目を優しく閉じます。
  • 体の緊張をほぐすように何度かゆっくりと、軽い呼吸を行います。
  • もしできそうなら、胸もしくは身体のどこかに手を置きます。この手は優しさに満ちた気づきをもたらしてくれるかもしれません。

優しい呼吸を繰り返し、体の緊張感はほぐれましたか。次は呼吸を続けながら体に注意をむけます。

  • 呼吸をすることで身体にどんな感覚がありますか。息を吸うときと吐くときの、身体の感覚に気づいていきます。
  • 息を吸うとき、身体に必要なものが入り、息を吐くときにはリラックスしていきます。
  • 身体のなすがままに呼吸しているかどうか、確かめましょう。

次に呼吸のリズムに注意を向けていきます。少し時間をかけ、呼吸の自然なリズムを感じます。

  • 身体が呼吸とともに海のようにかすかに動く感覚を感じます。
  • 心はどこかへさまようかもしれません。そのときは優しく呼吸のリズムに引き戻していくだけです。
  • 呼吸が身体全体を優しく揺らしています。

少し時間を取って、呼吸を味わってみましょう。自分がもういいかなと感じたら呼吸から注意を優しく手放します。静かな状態で、今感じていること、今のありのままを感じ取ります。

ゆっくりとまばたきしながら目を開けていきます。

以上がMSCプログラムの一つの瞑想法でした。いかがでしたか。呼吸を感じてみて、目を開けたときスッキリした人もいると思います。反対に特に何も感じなかった人もいるかもしれません。ただ、そのことに関して良いも悪いも評価する必要はありませんし、ストレスを感じる必要はありません。

大切なことは呼吸をしながら、自分に対して優しくあろうとしたことや、常に変わり続ける心のありようとつながり続けようとしたことです。みなさんはMSCプログラムの第一歩を踏み出しました!

さいごに

いかがでしたか。少しでもMSCのことを知ってもらえたら嬉しいです。そして、もっと詳しく知りたい人や実際にプログラムをやってみたいという方は、今回参考にしたMSCワークブックのURLを貼っておきますので是非、購入をご検討ください。MSCの疑問にも丁寧に答えており、非常にわかりやすいのでおすすめです。購入者限定のガイド瞑想もありますよ。

みなさんがみなさん自身のことを大切にできますように。

参考文献

クリスティン・ネフ博士、クリストファー・ガーマー博士著「マインドフル・セルフ・コンパッション」-自分を受け入れ、しなやかに生きるためのガイド- (2019)

運動(1) Magnus, C. M. R., et al. Self and Identity, 9, 363-382. (2010)

規則正しい生活(2) Schoenefeld, S. J., et al. Eating Behaviors, 14(4), 493-496. (2013)

アルコール(3) Brooks, M., et al. Mindfulness, 3(4), 308-317. (2012)

責任(4) Zhang, J. W., et al. Personality and Social Psychology Bulletin, 42(2), 244-258. (2016)

謝罪(5) Howell, A. J., et al. Personality and Individual Differences, 51(4), 509-514. (2011)

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